アイで空が落ちてくる 感想

電撃文庫MAGAZINE Vol.18掲載『アイで空が落ちてくる』の感想です。

ぼくが最後に見た光景は、空が落ちてくるようだった。
そして、ぼくたちの町は崩壊した。

ぼくはこの世界にひとりぼっちだ。

唯一のともだちは、向こう側と行き来できる『死んだ猫』と、向こう側にいるリンゴさん。

アイでネタがバレているので気をつけてください。
初読後、「リンゴさんが早く迎えに来てくれるといいね、シロくん」なんてのほほんとした気持ちになったのですが、これって、これって……うわぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!
俗に言う、意味がわかると怖い話ってやつですね……。
いくらなんでも、救いがなさ過ぎる……絶望で目の前が真っ暗クライ。

リンゴさんが送ってくれた写真に見覚えがあった時点で気づくべきでした。
いや、そんなん気づけるかぁぁぁあああああ!!!! って話なんですけど。
こいつなに一人で騒いでんの? という方もいらっしゃると思うので、そろそろ説明に入ります。

序盤、シロくんがヤマトの死体を見つけたときの回想シーンに注目です。

猫は最初に見つけたときから、どこか不可思議な印象があった。横たわる猫の周辺には、あまり見覚えのない材質の破片や壊れた機械のようなものが転がっていたのだ。あれはなんだったのだろう。テレビの中身も見たことがないぼくには、それがなにか区別がつかなかった。それとボロボロの赤い服と細長い肉塊も側に横たわっていて、鳥に突かれたあとがあった。さすがにそっちは運んで来られなかったので放置してある。鳥のように貪欲に、食べる気にはなれなかった。

……おわかり頂けただろうか?
わからなかった方のためにもう一度ご覧頂こう……

『そうそう、念のために説明しておくけど、シロ君と私の地球には多少のズレがあるみたい。どっちが遅いのか速いのかわからないけど、でも大丈夫。だってこの手紙をきみが読んでいるということは、そのズレを含めて調整出来ているってことだから。誤差は失敗しなければない、はず! とにかく、きみを一人にしない約束を守るから、だいじょうぶ! あ、それと私はリンゴさんだけに、赤い服を着ていくから! 分かりやすくていいね!』

今度こそ、おわかり頂けただろうか?
そう、このボロボロの赤い服と細長い肉塊はつまり……リンゴさぁぁぁぁああああああああああああああああああああんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
並行世界への移動自体には成功したものの、肉体が絶えられなかったのか何かに失敗したのかは定かではありませんが、シロの世界に着いたのはぐちゃぐちゃの肉塊となったリンゴさんで、鳥の餌に成り果ててるとかどんだけブラックだよ。
そうだよ、いるまんはこういうのも書く人だったよ。
その中でもトップクラスにダークテイスト溢れていますけどねっ! 入間黒間っ!

ここらで、ちょっと設定の話なぞ。

突如として日本を襲った大津波によって崩壊した町に一人生き残った少年・シロ。
ひとり行く当てもなく町を彷徨っていたある日、シロは黒猫の死体を見つける。
その猫には不思議なこと二つあった。
間違いなく死んでいるはずなのに体温を感じること。
そして、もう一つ。
時々、何の前触れもなく『消える』のだ。
そんな、奇跡を起こす猫が初めて消えてから三日後。
見慣れない変化にシロは気づく。
猫の尾っぽに白い手紙が結ばれていたのである。
こうして、シロとリンゴのヤマトを介した不思議な交流が始まった。


みたいな感じですね。
大前提である大津波は全くの原因不明で、作中ではほとんど触れられていません。
『日本』と書きましたけど、この規模だと世界中が海に飲まれていたとしてもおかしくないなとも思いました。
なんとなく、地震による津波ってかんじではなさそうな気がします。

正直、なにも知らないのだけれど世界のどこかで、なにかが起きたらしい。

冒頭の記述から自分が推測したのは、戦争かなにかでどこかの国が核爆弾を使ったんじゃないかなと。
そこらへんは詳しくないので爆弾でこの規模の津波が起きるのかは知りませんが、地震だったら津波が来る前に大騒ぎになってるはずなので、やっぱり人為的なものではないかと思います。
あとはそれこそ、『海』そのものが並行世界から移動してきた、とかも考えました。
いくら波に攫われたからといって死体が全然転がっていないのも少し不自然な気がするので、『海』の代わりにシロ以外の人間が別の並行世界(『海』があった世界)に飛ばされた(もちろん彼らの運命は林檎と一緒)、なんて想像も膨らみましたが、なにその壮大なSF劇。
や、充分壮大なSFですけど、アイ空(って略すと携帯小説っぽい)。
『小さく選ばれたたたかい』読了後追記:人類滅亡しちゃったみたいですね。
天災か超自然現象の仕業なのかなぁ。
世界中にはシロ以外にも生き残っている人間はまだいそうです。

・シロ
小学四年生でこの達観具合。紛う事なき、入間主人公です。
自分の置かれた状況を淡々と並べていくんですけど、もうね、痛い! 胸が痛いよ!
シロくんがほとんど痛そうにしてないのが、逆に悲痛さを増してますよね。痛い。ひたすら痛い。
でも、やっぱり根本はこどもだなぁと思わせる辺り、いるまんの達観少年少女の描写はピカイチだなぁと。
初めに反応するのが年齢の部分だったり、期待通りに美人だったり、ハートマークに照れたりとおっとこのこー! なところもいいよねっ!
年の差カップル、いいと思います(そーいう話じゃねーから!)
ラスト、迎えに行くねというリンゴさんからの手紙を読んで、希望に満ちた表情で空を見上げるシロが切なくて切なくて……
そうそう、イラストはブリキさんなんですが、これが素晴らしいんですよ! びっくりするぐらい!
カラー扉もラストの挿絵も入間ワールドが忠実に再現されていて「なんだぁ~、ブリキさんこういうのも描けるんじゃないですか~、このっこのぉ~」と相変わらずお前は何様だとはっ倒したいくらいのノリで思ったりしたのですが、本当にびゅーちほなんですよっ!
真っ青(実際は真っ白)な空にうっすらと猫の足跡が付いてたりする演出もニクいです。実にニクい。

カミナリ文庫について。
元ネタはもちろん、電撃文庫ですよね?
シロくん、漢字読めなかったのかな? 小学四年生で電撃って読めますっけ?
セルフディスペクト? っていうんですか、こういうの?
ほとんど真っ白とかブラックなジョークです。シロなのに。

『ぼくはどうしてここにいると思いますか?』

この手紙を最後に帰ってこなくなった猫。
誰もいない世界で、やっと見つけた生きる意味。
それを失い、必死になって町を探し回るシロを見ているのが辛くて辛くて……
そして、また独りぼっちになってしまったシロ。
それでも、前へ進もうとする、生きることを選んだシロは強い子です。
失って、失って、得て、また失って。
生きることは諦めない。
ここで生きていく。
そう決心したシロに届いたのは希望の手紙。
待ち望んでいた、リンゴさんからの救いの便りだった……

はじめに救いのない絶望の物語だと言いましたが、見ようによっては救いもある希望の物語と捉えることもできるような気がします。
シロが死体の正体に気づかなければ。
希望を抱いたまま、ひっそりと最期を迎えられたならば。
それは唯一にしてせめてもの救いと呼べるのかもしれなくて。
待つことが生きる意味となり、意味のある人生を生きたのだから。
不幸一色の中、一点の幸せが輝いていればいいなぁ。

……切ない。

・リンゴさん
おちゃめな人だなーってのが第一印象で、その印象は最後まで払拭されませんでした。おちゃめっ!
かわいい丸文字とかアホ毛があるとかおちゃめな美人とかなにそれ最高。
解剖しちゃうかっには不覚にもときめきました。
そして、左門や松平さんと同じくリンゴさんも根っからの科学者気質でした。
シロとの交流やヤマトの謎にハイテンションになってる姿がありありと浮かんでにやけました。
本当に惜しい人を亡くしました……


結局、この物語はどういうことだったのか。
解釈を3つほど挙げてみます。

・ぼくだけの星の歩き方
読み終わったときに真っ先に浮かんだのは『バカが全裸でやってくる』に登場した小説家・町高幸喜の著作『ぼくだけの星の歩き方』そのものなのではないか、という考えでした。

ぼくだけの星の歩き方を見つけた今なら、どんな場所に行っても怖くない。

ラストのこの一文が偶然であるということはないはずです。
意図的であるのは明白だと思われます。
しかしながら、本作とバカ全裸の『ぼくだけの星の歩き方』の内容は一致しません。
以上のことを踏まえると、可能性は限りなく低そうです。

・並行世界ではなく未来だった
リンゴさんも言っていたようにシロとリンゴさんの世界には時間のズレがありました。
シロの世界が冬、リンゴさんの世界は写真に写っていた入道雲などの描写からおそらく夏。
つまり、リンゴさんいる世界の約半年後の世界がシロのいる世界ではないかと考えました。
並行世界に見せかけたタイムトラベルであり、リンゴさんは未来へ行くことに成功したのではないのか、と。
しかしながら、次号に掲載された『未来を待った男』の描写によってこの説は否定されることとなりました。
この解釈でいくと、半年以内に津波に襲われることになりますが、リンゴさんのいる世界=左門のいる世界は少なくともあと60年ほどは平和なままです。
時間のズレが半年ではなく100年だとしたらあり得なくもないですが、そんなにズレてたら手紙のやりとりだけでもわかりそうなものですし、色々と苦しいのではないかと。
よって、この説はボツとなりますね。

・パラレルトラベルパラドクス
消去法的にシロとリンゴさんの住む世界は正真正銘の並行世界であると推測されます。
記事冒頭で引用した箇所にある『あまり見覚えのない材質の破片や壊れた機械のようなもの』とは並行世界へ移動するための次元転移装置(仮)の残骸と見てまず間違いないでしょう。
先ほど述べたように、時間のズレはシロの世界の方が速く、リンゴさんの世界が遅いと考えられます。
そうなると、「リンゴさんが死んだのはいつか?」という疑問が新たに浮かんできます。
可能性としては2つ。

・(1)シロの世界に到着直後(出発直前、到達途中含む)、死亡
黒猫・ヤマトを送ることには成功したが、人間を送ることはできなかった。
もしくはヤマトがそうであったように“生きたまま”送ることはできなかった。

・(2)シロの世界に到着後、津波に遭い、死亡
誤差は失敗しなければない、はず!』だったが、失敗した。
並行世界へ移動は成功するも、ズレの修正をできずに津波が起きる前に到着し、津波によって死亡。

おそらく、(1)が正解だと思います。
津波によって死んだのだとしたら、死体の様子、ヤマトや次元転移装置(仮)が一カ所に固まっているのは不自然です。
シロが唯一目撃した死体が彼女であり、他の死体は全てどこかに流されているので、死体のあった場所に到着し、同じくそこで亡くなったのでしょう。
質量や規模の大きさが問題だったのかもしれませんし、ヤマトは特別な存在だったということなのかもしれません。

『未来を待った男』の描写も見逃せません。

別の部署で並行世界を研究しているアホどもがいた。まぁ、私も五十歩百歩と言えばそうなのだが、そんなロマン溢れる連中の一人が数週間前に行方不明となった。しかも専用の研究室内をほぼ崩壊させて、だ。まるで渦潮に呑まれたように周囲のものをさらって、消失した。

装置を作動した瞬間にズタズタになって死んだっぽいですね。
他の研究員がどうなったのかが気になるところではありますが、それはおいておきます。
そして、そこを通りがかったシロが死んでいるヤマトを発見した、と。

……ここまで考えて再び背筋がぞくり。

ラスト、リンゴさんと共にシロの世界へやってきたヤマト = 冒頭、シロが拾ったヤマト

タイムループしていた…だと…?
ヤマトは死んだ未来と生きている過去を行き来していた?
そして、未来と過去は並行世界でもあり……?
え、どこから? どこからはじまってる?
あれ、デジャヴ? この感想どこかで……?







……あぁ、アイで空が落ちてくる

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Comments

こんにちは、元にぃむです(・∀・)

リンゴさんのこと、私はぜんぜん気づきませんでした…。
シロくん可愛いなぁなんて思ってる場合じゃなかった!
さすが寂さんです。

となるとやっぱりこの作品も時間のおとしものに入れてほしかったですね…。
いるまんの時間をテーマにしたものはやっぱり素敵ですねヽ(´ー`)ノ
Posted at 2012.02.11 (18:03) by にぃ (URL) | [編集]
Re:にぃさん
こんにちは、にぃさん。
さん付けだとブラザーみたいになっちゃいますね。

自分もはじめは気づかずに、シロくんとリンゴさんを待つかーなんて和んでいたというのに……
気づけて嬉しいような、気づかなかった方がよかったような、複雑な気分でしたね。

そうなんですよー、絶対入れるべきだったんですよっ!
これを入れずして何を入れるんだっちゅー話ですよまったくもう!
これはブラックに素敵なお話でしたけどね(´・ω・`)
Posted at 2012.02.11 (18:29) by 天野寂 (URL) | [編集]
はじめまして、めぐりといいます。

わたしもリンゴさんのこと全く気が付きませんでした。「クリスマス的なアレだよ、アレ」でシロくんが出てきたとき、「あれ、リンゴさんのお迎えは?」と思っていたのですが、まさかそんなしょっぱなにリンゴさんが出てきていたとは思いませんでした。というか思いたくなかったです。
すごい衝撃でした。まさかまさかでした。
寂さんの考察力はさすがだなあと思います。

いるまんの小説は学校の図書室でみーまーを読んだのが最初なのですが、もっと早くにいるまんと出会いたかったと悔やんでなりません。
Posted at 2016.04.16 (16:49) by めぐり (URL) | [編集]
連投しますごめんなさい

あの肉塊がリンゴさんだったっていうのも怖さがありますが、ボロボロの赤いのがシロから見ても布ではなく服と分かるようなものだったっていうのにも怖さを感じます。

あと、向こう側からシロの世界に送られてくるものは死んだ状態になるのでは?と思いました。
向こうでは猫は生きていて、こっちでは死んでいる。これは猫に限ったことではなく、法則なのでは。
なので、リンゴさんはシロのいるこっちに来ることはできた(成功した)けど、法則により死んだ状態だったのでは?と考えました。根拠は何もありません…ただの憶測ですが…。

連投の上、わかりにくい長文で本当に申し訳ありません。
Posted at 2016.04.16 (17:16) by めぐり (URL) | [編集]
Re: めぐりさん
はじめまして。
コメントありがとうございます。

『世の中には知らないほうが幸せなことがある』ということを教えてくれる短編ですよね……。
確かにこれに気づかず『クリスマス的なアレだよ、アレ』を読むとあれ? ってなりますね。
どういうこと? とアイ空を読み返して真相に気づいた人も結構いそうです。
せめて『合コンサイドB』ではリンゴさんに会えることを願うばかりです。

図書室にみーまーが置いてあるなんて、素敵な学校じゃないですか。うらやうらやま羨ましいです。

シロは聡い子なので、遅かれ早かれあの時の肉塊の正体に思い至ってしまう日が来ると思っています。
おそらく、『クリスマス的なアレだよ、アレ』のときには既に気づいてしまっているのかなと……本当、辛いです。

めぐりさんの仰る法則がある可能性はあると思います。
ただ、悲しいかな、どちらにせよ、リンゴさんがグチャグチャになったのは次元転移装置(仮)の不具合によるものだと考えられるので、シロに会いに行くことは叶わないという……とここまで打って思いついたんですけど、もしその法則通りで装置による肉体破損がなかったとしたら、それはそれでエグい展開になっていたなぁと。
でも、その場合、装置が無傷で残っているのでシロが頑張ればリンゴさんやヤマトと一緒にリンゴさんの世界へ行けるかもしれませんね!
やーなんかテンション上がってきました!!
めぐりさん、コメントありがとうございました!!!!!
Posted at 2016.04.20 (07:05) by 天野寂 (URL) | [編集]
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