もうひとつの命 解説

メディアワークス文庫『もうひとつの命』の解説です。

その夏、彼らは罪を背負い、ひとつの願いを叶える。青春を生き迷う、少年と少女の物語。

もうひとつの命

onemorelife
 あの頃の僕らはまだたくさんの高いものに世界を囲まれて、息苦しさを覚えていた。自由に走り回っているようで、ふと気づくと自分がどこにも行けないような気がして焦り、苛立ち、空を仰いでいた。僕らが『魔女』に出会ったのは、そんなときだった。
 あれから数年、自殺した稲村が生き返った。思い返すのは、例の魔女のこと。あの場に居合わせた僕ら六人は、どうやら命を一つ分だけ貰っていたらしい。一度だけ復活できる。なら命一つ犠牲にして、僕らに何が成し遂げられるだろう。

感想は後日投稿予定です。
解説につき、致命的なネタバレが含まれます。
読了した方のみお読み下さい。

・概要
作中でほとんど種明かしされるので読めば大体分かると思いますが、一応簡単にまとめておきます。

章題人物正体
死人(1)
死人死人
僕(腰越)腰越として生まれ変わった江ノ島
死人(2)
死人死人死人
死人死人死人死人
死人死人死人死人死人死人
江ノ島
七里弁当泥棒生まれ変わった和田塚
和田塚和田塚を刺殺した浮浪者江ノ島に殺されて生まれ変わった本物の腰越
上の表についてはちゃんと読んでいれば誰でも理解できると思います。
ただ、このちょっとした人物誤認トリックは本作最大のトリックから目を逸らさせるための隠れ蓑にすぎない、と私は睨んでいます。
では、その最大のトリックとは何か。
それは魔女=生まれ変わった藤沢妹であるという真相です。
これに関しては断定できる決定的な描写はないので、あくまでもそういう解釈も可能というレベルではあるのですが、それを示唆する描写が1個や2個ではなく、個人的にはほぼ間違いないと確信しています。
今回一番語りたいのはここで、書いていたら結構長くなってしまったので、感想とは別にして上げることにしました。
というわけで、魔女=生まれ変わった藤沢妹説に関して詳しく解説していきます。

・赤い木の実
まずは『赤い木の実』について判明している事実をまとめておきましょう。
・1つ食べることで命が1つ増える
 →1度に2つ以上食べた場合、食べた分だけ命が増えるのか?
  →魔女の「ま、一人で全部食べるのも面白かったかもね……」という台詞からするにおそらく食べた分だけストックできると予想
   →1人1度限りではなく、木の実があれば何度でも増やせる
・木の実によって蘇った人間は、死ぬ前に望んだ姿になれる
 →容姿はもちろん、性格や記憶まで全くの別人になることも可能
  →おそらく性別や年齢も問わない
   →ただ、実在する人物と全くの同一人物になるわけではない
・食べた人間が死ぬと、順当に本人の命が失われた後、種が次の命となる
 →厳密には生き返るわけではなく、生まれ変わるということ
  →生まれ変わった人間は心臓が動いていない
   →不老というわけではなく、常人と同じように成長する
・生まれ変わった命には限りがあり、限界を迎えると体内から現れた植物の根のようなものに体を覆われ、最後は綺麗な赤い花を咲かせた後、跡形もなく散り去る
 →腰越、江ノ島は共に6~7年の命だったが、魔女曰く、相性次第では最大十数年に延びることもあるとのこと

以上4点を踏まえた上で、先に私の解釈を述べておきます。
『魔女は死ぬ度に別人として生まれ変わっていた。そして、藤沢妹は車に轢かれて死ぬ前から既に生まれ変わった姿であり、赤い木の実を食べた(命のストックがある)状態だった。死後、彼女が生まれ変わったのが魔女であり、江ノ島に語っていたいろんな人になる夢(最後は殺される話)は今まで経験してきた数々の死に際の断片的な記憶だった。』というものです。
他にも何パターンか考えたのですが、個人的にはこの解釈が一番しっくり来ました。
というわけで、何故この解釈に至ったかを説明していきます。

・魔女との邂逅
森の中に倒れていた魔女を藤沢が発見したわけですが、そもそも魔女はなぜ死んでいたのでしょうか?
植物の根に覆われておらず、花にもなっていないので、木の実の命の寿命ではありません。
→藤沢妹が死んだ時期は不明ですが、藤沢がこの時小学4年生であり妹の死後6年は絶対に経っていないはずなので、整合性は取れています。
外傷があるような描写もないので、後はもう餓死くらいですが、口の中に木の実が入っていたことを考えるとそれもないでしょう。
というか、本当に魔女は死んでいたんでしょうか?
藤沢が魔女を死んでいると判断したのは息をしていなかったからですが、生まれ変わった人間は鼓動がないのでもしかすると呼吸も必要ない可能性があります。
つまり、魔女は死んでいたのではなく、死んだふりないしはただ単に寝ていただけだったかもしれません(森の真ん中で寝るなよとか口の中に木の実入れたまま寝るなよとか突っ込んだら負け)
起きた後の反応からして、死んだふりはなさそうなので、寝ているところに人工呼吸されて噎せ起きた感じですかね。
じゃあなんでこんなところで寝ていたのかというと、大好きな姉さんこと藤沢さんが来るのを待っていたんじゃないかなと。
これに関しては魔女が意図的に待っていたわけではなく、木の実の効力が魔女の望みを叶えるためにそうさせたんじゃないかなと、そんな風に想像しています。
藤沢に木の実を与えた理由を問われた魔女は真意を語らずはぐらかしていましたが、藤沢妹の死ぬ前の望みは『魔女になって、お姉ちゃんの役に立ちたい』とかだったのかもしれません。

・江ノ島パートで語られる藤沢妹像
・藤沢妹の死因は飛び出しによる自動車事故
どうやら江ノ島が注意したにも関わらず、そのまま飛び出し轢かれてしまったようです。
おっとりとした性格だったと言えばそれまでですが、これは命のストックがあるが故の危機感の欠如が原因ではないでしょうか。
藤沢パートで魔女が赤信号を渡ろうとして藤沢に手を引かれるシーンがありますが、ここは魔女=藤沢妹説の有力な根拠の一つです。

・まるで大人のように落ち着いたゆっくりとした喋り方だった
魔女は死ぬ度に別人として生まれ変わっている、という解釈が正しければ少女に生まれ変わったなら少女然としていなければなりません。
ただ、完全に生前の記憶や性質がなくなるわけではないというのが腰越に生まれ変わった江ノ島を見るとわかります。
彼はほぼ腰越に生まれ変わりましたが、『おれ』ではなく『僕』と粗暴な性格から穏やかな性格になっていました。
彼が死ぬ前にそういう腰越を望んだとも取れますが、そうではなく生来の性格が反映されたのでしょう。
であるならば、1200年を生きてきた魔女が少女に生まれ変わったら、それはどうしたって大人びた少女になるはずです。

・いろんな人になって、最後は死ぬ夢
彼女が何度も生まれ変わっている説の根拠で最有力なのがこの夢の件です。
実はこれらの夢は夢ではなく、彼女が経験してきた人生の記憶の断片なのではないでしょうか。
魔女の言葉がどこまで真実かは微妙なところなのですが、侍がいた時代から生きていたということは1200歳というのもあながち嘘ではないのでしょう。

藤沢パートの妹像および魔女像
・歳に似合わない落ち着きのようなものがあった
これは江ノ島パートと同じですね。
姉から見ても大人びた妹だったと。

・時折妙な質問をしてきた
藤沢妹に生まれ変わる前、彼女は『妹になりたい』と望んだんでしょうか?
どちらかと言うと、『お姉ちゃんがほしい』の方がしっくりきますかね。
どっちにせよ魔女かわいいな。

・藤沢の元に現れた魔女
魔女はなぜ、真っ先に他の誰でもなく藤沢の元へやってきたのか。
もちろん、素直に作中に書いてある通りに受け取ればいいんですけど、もう少し穿って考えてみると、そもそも魔女はどうやって藤沢の自宅を探し当てたのか、という疑問が生じます。
千里眼というのは十中八九嘘なので、一番可能性として高いのは藤沢をストーキングしていた、という事案です。
それも稲村復活劇後、最近初めたものではなく、かなり以前、おそらく山での邂逅からずーっとストーキングしていたんだと思います。
でなければ、1年後に江ノ島殺害現場を目撃するというのは偶然にしては出来過ぎでしょう。
ではなぜ、ストーキングをしていたのか、ですが、それは魔女に生前(藤沢妹だった時)の記憶が戻っていたからかもしれません。
いきなりさっきと矛盾したこと言い出しやがってと思われると思いますが、ちゃんと根拠はあるのでご心配なく。
根拠については後ほど触れますので、今は記憶が戻っていた体で話を進めます。
となると、自宅の場所はストーキングするまでもなく、元自宅なわけですからすんなり辿り着けたでしょう。
ただ、だからといってストーキングしていなかったとは思いませんが。
「ここがなんだか気に入ったの」と嬉しそうに藤沢家に泊まる魔女も地味に藤沢妹説を後押ししてくれる気がします。
この他にもちょいちょい記憶が戻っているのでは? と匂わせるような箇所を引用してみましょう。

「あなたわたしの姉さんじゃないでしょう。べたべたしたのはいらないわ」
 突っぱねると、魔女は廊下に立ったまま腕組みする。
 上から下へ、なにかを目で追うように頭を振って。
「姉さんかぁ」
 吟味するように眩く。
「そういうのもいいわね」
 魔女は帽子の向こうで、童子のように屈託なく笑うのだった。

姉妹逆転劇。

 魔女が三角帽子を回しながら、目にしたものに飛びつくぐらいの熱で興味を晒す。
「あなたの妹って、どんな子だったの?」
「ふわふわした子だったわ。よく見た夢の話をして、マイペースで……いい子だったのは間違いないわ」
「ふわふわに、夢ねえ……」
 うんうんと、なぜか魔女が納得するように頷く。
「あ、私の昨晩の夢とか聞きたい?」
「聞きたいと思う?」
「ええとっても」

ここはかなり確信突いているんじゃないでしょうか。
姉が自分をどう思っていたかはやはり妹として気になるところでしょう。

「あなた、なんでそんなに妹にこだわるの?」
人も殺せるくらい、と言外にある気がした。魔女が目を海の方へと向けた。
「妹さんのこと好き?」
「べつに」
「あなたそればっかりね」
 呆れたように語気を強めて言う。なにを怒っているのだろう。

そこは「好き」って答えなきゃお姉ちゃん!
プリプリ怒っている魔女かわいい。
この他にも表情に乏しい藤沢の感情の変化を見抜く辺りも姉妹感を感じます。

・キスで記憶が戻る
はい、というわけで、記憶が戻った根拠ですが、ずばり『キス』です。

「あなたがキスしたら記憶が戻るかもしれないわね」

単なる戯言である可能性の方が高いですが、もしかすると本当にキスによって記憶が戻るとしたら、ですよ。
あの日、藤沢に人工呼吸されたことで魔女に妹だった時の記憶が戻った、とは考えられないでしょうか。
だからこそ、おそらくはかなり貴重な赤い木の実を6人に分け与えてくれたのでしょう。
1200年、誰にも与えなかった木の実をそう安々と渡すわけはないでしょうから、そこにはそれなりの理由があったはずです。

というわけで以上が魔女=生まれ変わった藤沢妹説に至った経緯です。
更に言うならメタ的に考えて、そうでなかった場合、藤沢妹に関する描写の必要性が薄くなってしまうんですよね。
全然関係ないなら腰越弟みたいに幼い頃に亡くなった以上の描写は不要のはずなんです。
特に死んでばかりな夢の件なんかは必要性皆無です。
そして、入間さんがこんな思わせぶりで無駄な描写を入れてくるわけがありません。
というわけで、逆説的に魔女=生まれ変わった藤沢妹であると、そう結論づけられるわけです。

・余談
・章題の意味
章題の意図するところについてはよく分からなかった、というのが正直な感想です。
『死人』が2回あるのが曲者ですよね。
『死人』が1回ずつ増えていくとかなら分かりやすかったんですけど。
『死人』パートは全て江ノ島or腰越(←江ノ島)視点かと思いきや、稲村が途中に入ってきますし。
その章に登場する『死人』の数でもありませんし、その章までの累計『死人』数でもありませんし。
色々と頭を捻ってはみたものの、これと言ってしっくり来る解釈は思いつきませんでした。
分かるのは名前がそのまま章題となっている人物はまだ一度も死んでいない状態でスタートしてるってことくらいでしょうか。
これだ! という解釈に辿り着かれた方がいらっしゃったら教えて頂けると嬉しいです。

・茶色い木の実
魔女が砕いてしまい、説明もなかったので分からず仕舞いでしたが、茶色い木の実には一体どういう効果があったのでしょうか?
これは完全なる想像ですが、茶色い木の実は不老の効果があるんじゃないかなと。
魔女は8年経っても外見が変わっていませんでしたが、赤い木の実についてまとめた中で不老になるわけではない、というものがありました。
だとすると、なんらかの方法で老化を防ぐ必要があるはずです。
で、その方法というのがこの茶色い木の実なんじゃないかなと。

・赤と茶の混じった葉
森で倒れている魔女を見つけ、他の5人を呼びに来た藤沢の頭に付いていた葉っぱは本当に葉っぱだったんでしょうか?
花びらと葉っぱを見間違えることはそうおかしいことではありません。
流石に深読みしすぎな気はするのですが、この描写をみすみす見過ごしていいものかと思う自分がいます。
ただ、ここから更に話を広げていくと今まで語ってきた自説を自分で否定することになってしまいますし、流石に蛇足感がハンパないのでやめておきます。

Trackback [0] | Comment [1] | Category [入間人間] | 2017.12.23(Sat) PageTop

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こんにちは。初めまして。
いつも情報・解説が早く深いのでブログ拝見させて頂いています。

さて、余談となっている章題の意味について自分なりに考えてみました。
と言っても色々前例のある担当編集さんの誤植という可能性も高い為、あれこれ考えても意味ないかもという前置きをしておきます。

まず目次でパッと目についたのが、死人が赤字で書かれている点でした。
章題が『死人×6』まである事から、6人分の赤い実を指しているのではないかと連想しました。
赤い実がどういう効果を示したか、ではなく単純に赤い実が使われた・と読者側が認識したタイミングに着目し、「赤い実が使われた事が判った」時点で章題に死人という単語がカウントされていくといった考え方です。
問題となる『死人×1』が二つある事に関しては後述するとして、七里・和田塚の分はその次の章でカウントしています。ザックリまとめると以下の通りです。

稲村が生き返った『死人×1』、
腰越(江ノ島)が既に一度死んでいたと判る『死人×2』、
『七里』の次の章『死人×3』、
『和田塚』の次の章『死人×4』、
藤沢の実で再度稲村が死んだ『死人×5』、
腰越が江ノ島に殺されていたと判る『死人×6』、
…といった感じです。

我ながら七里・和田塚については苦しいなと思いますが、とりあえず話を進めます。

さて、問題の『死人×1』その2ですが、6人分の赤い実とは別カウントのもうひとつの実、即ち魔女(藤沢妹)の分の実ではないかと思います。
この章では江ノ島視点から、藤沢妹が死んだ事が明言されます。前章でもサラッと触れられてはいますが、同じ章題が付いている事で違和感を際立たせ読者に考えさせようという意図があるのではないかと思いました。
つまり赤字で書かれた『死人』とは、6人分の実と魔女の分の実、6+1の赤い実を指しているのではないかと。

長文の上、所々ふわふわなのは本当に申し訳ないと思っていますが、昨日読み終えて思い付いたまま書いているのでご勘弁願いたいです。
それでは今後も更新楽しみにしています。

2018.01.09(Tue) 13:58 | 秋谷稲近 [URL] | 編集 | ▲PageTop

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