バイバイ、ブラックバード 伊坂幸太郎 感想

このブログについてに書いてあるように、気が向いたので(実はこの前の“オー!ファーザー”の時も気が向いていたんですけど)今回は伊坂幸太郎さんの新刊“バイバイ、ブラックバード”の感想を書くことにしました。
初ノンイルマー記事になるんじゃないか?と思いましたが、もうすでに魔太郎関連が思いっきりノンイルマーでした。

多分、この記事で初めましてな方が結構出てくるのでは、と無駄な心配を発揮してここらで改めて自己紹介を。
好きな作家さんは数多くいますが、入間人間、森博嗣、伊坂幸太郎(敬称略)、この御三方が頭かなり飛びぬけて大好き人間、その名を“天野寂”と申します。
基本的に既読者を対象とした感想しか書きません。
つまり、ネタバレってやつですけど、ネタバレと言うよりは自分の場合、未読者が読んでもちんぷんかんぷんな内容になってるような気がするので、意味が分からなくてもいいなら読んでも別に問題ないんじゃないかな、と思います。
そこらへん、自分は全く気にならないので良く分からないところなんですけど。
自分が気に入った作品を色んな人に読んで欲しいと思うこともありますけど、だからと言って積極的に人に薦めようという気概は湧いてこないというか、要するに天の邪鬼な人間なのです。
それよりも既に読み終った人向けに「こことか面白かったよねー」という内容の方が書いていて楽しいですし、しばらく経って読み返す時もそっちの方が面白いので。
バイバイ、ブラックバードバイバイ、ブラックバード
(2010/06/30)
伊坂 幸太郎

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まず、本書の説明から。
本書は双葉社の企画『ゆうびん小説』として書かれた五編の短編に書き下ろし一編を加えて刊行されました。
詳しくは『ゆうびん小説~伊坂幸太郎さんの最新小説があなたに届く』をご覧頂いた方が早いと思いますが、簡単に言うと『短編を書き終えるたび、五十名の方のポストに小説が届く』というもので、なんという素敵企画。
恥ずかしながらこんな企画があったなんて全く知りませんでした……自分も「あれ、なんか届いてる。なんだろ?」みたいな展開繰り広げたかったです。
心から、お悔やみ申し上げます……自分に。
それから、太宰治の絶筆『グッド・バイ』のオマージュ的作品でもあるそうです。
この辺りの話に関しては
「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために
(2010/06/30)
ポスタル・ノベル

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をお読みください。
伊坂さんのロングインタビューや件の『グッド・バイ』等が収録されています。
でもこれ、わざわざ分けずに一冊にして1600~1800円くらいにして出してくれればいいのに

では、続きからは内容に触れていくので、先入観0で読みたいという方はバイバイ、ブラックバードです。
まぁ、そういう方は初めからこんなところに訪れたりはしないですよね。
口調が若干変わりますが、気になさらずに。
面白かった!
はっきり言って面白くないページはない。読んでる間、何度吹き出したことか。
『あるキング』、『SOSの猿』と新しい領域に挑戦している伊坂さんだが、本書は『従来の』というのか、つまるところ伊坂さんの得意とする作風で描かれている。

あらすじとしては『もうすぐ<あのバス>に乗らなければならない男が付き合っている女性五名の元を訪ね、別れを告げていく』という非常にシンプルな内容となっている。

主人公である星野一彦は五股をかけている。
この部分だけ抜き出して聞かされたら、十人中八人は「なんて最低な野郎だ。ろくな死に方しねぇだろうなそんなやつ」と不快感も露わに眉を顰めるだろう。残り二人は「モテるって罪だよね」だとか「一夫多妻制万歳!」だとか言い出すかもしれない。それはともかく、そんなことを褒められるわけがなく、実際最低な野郎だと初めは思っていた。しかし、読み進めていくにつれ、彼の人となりが段々と掴めてくる。すると、第一印象はあらかたどこかへ消えていった。自分は“一途”という言葉が好きなのだが、それになぞらえていうのならば、彼は“五途”なのである。
どれが本命でどれが遊びで、といった区切りは存在せず、どの相手に対しても本気も本気、大マジなのだ。
これは逆にかなりタチが悪いのかもしれない。が、この誠実さが星野最大の魅力でもあるところは疑う余地がない。

作中、星野とずっと行動を共にする繭美という人物がまた色んな意味で凄まじい。
身長、体重ともに180という時点で既に規格外であるのに、容姿もまさに怪物といった風情の怪物である。“風情の”では生ぬるい気もするから、“正真正銘の”と言い換えてもいいかもしれない。
その外見もさることながら、性格のねじ曲がりっぷりと言ったら筆舌に尽くし難い。
人を傷つけること以上に面白いことなどないと思っている人間(と書いていいかどうかも危うい)で、行動もすべて人を傷つけることだけが目的となっている。最悪である。
いつも辞書を持ち歩き、ことあるごとに大半がサインペンで黒く塗りつぶされたそれを他人に見せつけて威圧する。
彼女の辞書に「常識」「気遣い」「マナー」「悩み」「色気」といった単語はない。
これだけ酷い人物であるにも関わらず、段々と魅力的に思えてしまうのは伊坂さんの筆力の為せる業だろう。
伊坂さん自身は「自分は悪人が書けないんですよ」と言っているが、それはそれで凄いことなのではないだろうかと思う。

作品は前にも述べた通り五つの短編+書き下ろし一編という構成になっている。
今回も一編ごとに少しずつ、感想を書いていく。
章題は全て同じものにローマ数字がついているだけなので、会いに行く女性の名前で分けていくことにする。

廣瀬あかり

初っ端から面白い。
伊坂作品全般に言えることだが、文章のセンスがハンパない。
どうってことないことでも言い方一つでここまで面白く表現出来るものなのか、と感心すること幾星霜である。
で、なんと言っても会話文でしょう。
伊坂会話文の素晴らしさは無類である。
と、この短編の感想書かなければ。
そう、ジャンボラーメン食べに行く話。
繭美の「私と結婚することになったって言えば、諦めるだろ」作戦で納得しないあかりを納得させるためにジャンボラーメンに挑戦するという、設定はそんなに面白くもないものなのだが、やっぱりべらぼうに面白かった。
第一話ということで繭美のむちゃくちゃ加減、それだけでインパクトは十分で楽しめた。
自分もたまには予想を裏切ってびっくりさせたいものである。
星野が茄子男に力を貸した場面で「ああ、星野ってこういうやつなんだな」とこの一話で既に彼に惹きつけられていたのだと今は思う。
「きみのお祖父さんのオリジナルではない」ここはめちゃくちゃ笑った。

霜月りさ子

自分も映画なんかで警察に車を奪われた運転手がその後どうしているのか、とかそういうことをしょっちゅう想像する。
まぁ、これはその一例と取れなくもない、のだろうか。
世界優しい人ランキングのくだりで爆笑した。
ほんと、どうやったらこんな愉快な文章を思いつくのだろうか。
海斗くんが可愛かった。可愛すぎた。「名刺を切らしております」和み切った。
全体的な流れは流石伊坂さんといった感じで言うこと無し。
「大人にはサンタクロースが来ないなんて、誰が決めたんだよ」全くその通りである。
このオチも最高だった。

如月ユミ

本書はいわゆる、テンプレ小説の体裁をとっている。
まず、プロローグとなる女性との出会いを三人称で語り、「あれも嘘だったんだ!」と相手方の女性が言い、それに対し「お前にも同情はするんだよ」と繭美が嫌みを垂れる、という構造が共通している。
伊坂さんはあまりこういう形式は好きではないそうだが、自分は結構好きだ。
一度、挑戦してみたい。と思うだけは思う。
(汗)の著作権とかどこからそんなしょーもないネタを生み出しているのか、笑うしかない。
そして、それも実は伏線で見事に回収してくるのだから、本当尊敬するしかない。
全体を通しても、繭美の得体の知れなさをさらに際立たせるのにも一役買っている。
この辺りから、本当に霊長類かよと思う一方、なんだかんだで結構いいやつなんじゃないかなとじわじわ魅力的に見えてくる。
ユミみたいな、愛すべきバカは好き。

神田那美子

この話はほとんど実話なんだそうな。
そんなことは関係無しに、素晴らしいラストだった。
涙こそ流れなかったものの、ぶわっと全身が粟立った。
結局どうなったのかは分からない、あとは想像するしかない、もしかしたら絶望が待っているのかもしれない。
だが、もしそうだったとしても、救いのある、前向きな余韻が堪らない。
自分はこういう想像の余地を残したラストが大好きである。
伊坂さんも今回で一番気に入っているラストだそうだ。
自分も迷うところではあるが、わずかに次の話が一番お気に入りだろうか。

有須睦子

「ヤマタノオロチというか、ゴマタノホシノだよ」
だからなんでそんな面白い発想が出来るのか。
笑いすぎて腹痛いではないか。
このラストも素晴らしかった。
パンのエピソードに絡めての「美味しいパンにはなれなかったんだね」の秀逸さには恐れ入る。
サイボーグまで泣いたら、こっちが泣かないわけにはいかないではないか。
というかこんな良い女を泣かせるとは、なんか段々星野に腹が立ってくる。
でも、計算が出来ない星野だからなぁ、憎めないんだよなぁ、何故か。

繭美

星野と二ヵ月強行動を共にしてきたら、そりゃあ怪物女繭美だって惚れちゃうぜってなもんよ、な話。
相変わらずの星野に対して、徐々に変化していく繭美も本作の見どころの一つだろう。
一言で言えば、底なしのお人よし。
付き合っているうちにその底なし度に呆れを通り越して、感動させられた繭美は「お前は、私でも助ける」と言い、実際、星野は彼女を助けようとする。
ここが星野の星野たるゆえん、女性を惹きつける理由だろう。
そもそも別れを告げに行く動機というのが、小さい頃に母親が帰って来なかった時の恐怖という原初体験から、誰よりも待っている者の不安について詳しい彼は、その不安を彼女たちに味あわせないために、というものである。
自分がこれからどうなるか分からない、死ぬかもしれない、いやもっと恐ろしい目にあうかもしれないという状況で他人のことを考えられる優しさ、それが彼の強さだと思う。
<あのバス>に乗らないで済む方法として、今まで別れてきた五人をうまく利用すれば、という繭美の提案に対しても、彼は「彼女たちに迷惑をかけたら元も子もないから」とそんな場合じゃないことを言う。
作中ではほとんど描かれなかったが、彼が借金を負ったのは十中八九そのお人よしにつけ込まれて騙されたのだろう。
<あのバス>の存在も詳細を語らず、想像を掻き立てる塩梅がちょうどよいと思った。
この作品に限って言えば、全部説明するとかえって興ざめなような気もする。
妄想力なら誰にも負けないと自負する自分に死角などありはしない。
そして、このラストである。
こんなに清々しい読後感はそうそう味わえるものではないだろう。
左人差し指、右中指、と忙しなく、タイプする。そろそろこの辺で終わりしよう。一体これのどこが感想なのだ、と思った人もいるだろう。全く同感だ。しかし、いつもだいたいこんな感じである。タイプする。タイプする。タイプする。もう一度、読み返してみる。感想とは自由である。タイプする。タイプする。タイプする。タイプする。タイプする。目を閉じる。タイプした。

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「バイバイ、ブラックバード」伊坂幸太郎
太宰治の未完にして絶筆となった「グッド・バイ」から想像を膨らませて創った、 まったく新しい物語。 1話が50人だけのために書かれた「ゆうびん小説」が、いまあなたのもとに。 「理不尽なお別れはやり...
Posted at 2011.06.22 (01:10) by 粋な提案

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Comments

No title
おぉ。伊坂幸太郎さんの新作ですか。
『ゆうびん小説』という企画は私も知りませんでした。
何とも素敵なお贈り物。かつての私にもお悔やみをお申し上げます。

伊坂幸太郎さんの新作は毎回チェックしているのですが、結局買わずじまいで、いまだに一冊も読んだことがありません。
読みたいという気持ちはあるのですが。

図々しいお願いではありますが、伊坂幸太郎さんの作品でおすすめなどを教えていただけると嬉しいです。
Posted at 2010.07.04 (00:55) by つかボン (URL) | [編集]
Re:つかボンさん
知ってれば絶対に応募したんですけどね……。
こういう企画はどんどんやって欲しいですね。
発案された編集者さんはきっと素敵な方なのでしょう。

自分もそういう作家さんいっぱいいますよー。
なんだかんだあったりして、結局タイミングが掴めないんですよね。

一番好きな作品は『重力ピエロ』、一番面白いと思う作品は『ゴールデンスランバー』なんですけど、あえてここは『砂漠』をオススメしてみます。
最近文庫化されたばかりで、伊坂さんの青春小説です。
あらすじを超簡単に言えば、大学生たちの青春ストーリーです。
青春小説好き(ですよね?)のつかボンさんのお気に召すんじゃないかと。
高校生の時に読んだんですけど、当時はこれを読んで「こんな大学生活送りたいなぁ」と思ったものです。
大学生の今、是非読んで欲しい作品ですね。
自分は実は買っちゃいました。
伊坂さんは文庫化の際、加筆されることに定評があるので。
もし、読まれたらその時は感想お願いします。
Posted at 2010.07.04 (12:35) by 天野寂 (URL) | [編集]
No title
『重力ピエロ』や『ゴールデンスランバー』は有名ですよね。あとは『グラスホッパー』などでしょうか。
しかし『砂漠』は知りませんでした。
お察しの通り青春小説は大大大大大好物です!
しかも文庫化となるとお値段もお手頃。これはぜひ購入しなければなりませんね。
大学生の今! 間違いなく読むべき作品だとお見受けしました。
もちろん読み終わりましたら感想書かせていただきます。
伊坂作品は初めてなので多少緊張はしますが、読み、味わい、心に灯った想いをそのまま言葉にしていこうと思います。

紹介していただきありがとうございます。
必ずや読ませてもらいます。
Posted at 2010.07.04 (20:45) by つかボン (URL) | [編集]
Re: No title
『重力ピエロ』とか『ゴールデンスランバー』は映画化もされてますしね。
もちろん、劇場まで足を運んだ天野寂です。
上手く察っせれたようでなによりです。
はい、値段とかもお手頃です、そこんとこもちゃんと考慮しときましたので。
この小説で大学生活、何か変わるかもしれないですよ。別に変わらないかもしれないですけど。
感想、『砂漠』を読みつつ楽しみに待ってま~す。
これでまた一人、伊坂ワールドに魅入られてしまった人間が増えるのでしょうか、それとも……

いえいえ、どういたしましてです。
つかボンさんのお口に合えば、これ幸いです。
Posted at 2010.07.05 (01:05) by 天野寂 (URL) | [編集]
こんにちは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
Posted at 2011.06.17 (18:59) by 藍色 (URL) | [編集]
Re: 藍色さん
返信遅くなってしまい、申し訳ありません。

初めまして、コメントありがとうございます。

えっと、トラックバックされていないようなんですけど……
そちらのブログにある返信が出来なくて困っています。
トラックバックとかよくわからなくて……浅学ですみません。

藍色さんのブログを拝見させて頂きましたが、伊坂さんすごいお好きみたいですね!
やっぱいいですよねー、伊坂作品。
Posted at 2011.06.20 (08:13) by 天野寂 (URL) | [編集]
なんだこのマッチポンプ
Posted at 2013.04.27 (11:14) by (URL) | [編集]
Re: さん
はじめまして。
コメントありがとうございます。


私は伊坂さんじゃないですよ?
Posted at 2013.04.28 (13:12) by 天野寂 (URL) | [編集]
こんにちは!
たまたまこのブログ?を読んだのでコメントさせていただきます!

まだオーデュボンの祈りと、バイバイブラックバードしか読んだことがないのですが私も伊坂さんの本の世界観がお気に入りです。

伊坂さんの作品を読み始めた最初の頃は、非現実的な場所や登場人物が出てきて、ユニークだなー、なんて思っていましたが
最後には人間臭さだったりを感じて心が暖まるような世界が伊坂さん独特だなーと感じています。

これからも感想や紹介楽しみにしていますね!
Posted at 2013.05.10 (19:42) by まい (URL) | [編集]
Re: まいさん
はじめまして。
コメントありがとうございます。

こんにちは!

まだ2冊ということはこれからたくさん楽しめますね!
正直、羨ましいです!
『神様のレシピ』的世界観(勝手に命名)は自分も大のお気に入りです。

オーデュボンの祈りは非現実要素がてんこ盛りですけど、他の作品はむしろ現実っぽい話が多かったりします。
魅力ある登場人物が繰り広げる軽妙なやり取りが本当面白いと思います。
なんでこんな会話思いつくんだよ! 最高だろ! と突っ込みながらいつも読んでます。
読後感の良さも伊坂作品の魅力ですよね。
ブラックバードのラストも絶望的な状況なのに希望を感じさせる余韻がなんとも言えません。

ありがとうございます! 頑張ります!
Posted at 2013.05.11 (13:39) by 天野寂 (URL) | [編集]
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